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仙台高等裁判所 昭和37年(ラ)65号 決定

抗告人 佐々木武四郎

相手方 岩井千造

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告代理人は原決定を取り消し、更に相当の裁判を求める旨申し立てた。

よつて判断するに仮りに所論の二個の仮処分命令が所論のごとく同一土地についてされたものとして、抗告人が先きに相手方を債務者として得た仮処分命令(以下第一次仮処分という)と、その後に相手方から抗告人に対して執行された本件仮処分命令(以下第二次仮処分という)が果して牴触するものであるかどうかを考えてみるに、先ず両仮処分命令がともに同一の土地に立ち入ることを禁止する面においてはなんら相牴触するものでないことは多言をまたない。

問題は第一次仮処分命令において相手方は「抗告人の本件土地における宅地造成工事に対する一切の妨害行為をしてはならない」とされておるのに拘らず、その後「抗告人は本件土地に土砂、岩石を捨て、又は埋立工事等をしてはならない」旨を命じた第二次仮処分命令を得てこれを執行したことであつて、この点は一見先行仮処分命令に牴触するかのような観を呈する。しかし第一次仮処分命令にいう宅地造成工事の妨害行為とは右工事の妨害となるような事実上の行為を意味し、相手方の有する右仮処分命令に対する異議申立権を封じたり、或いは相手方の有する実体上の権利の擁護のために保全処分の法的手段に訴えることまでも禁止する趣旨のものでないことは言うまでもないところであるが、このような事実上の妨害行為は相手方が右仮処分によつて本件土地に立入を禁じられることによりすでにこれをなすべくもないところであるから、右仮処分命令中の妨害行為の禁止文言は立入禁止とは別個独立の不作為を命じたものではなく、いわば立入禁止の一状態を注意的に書き添えたにすぎないものと解するのが相当である。

このようにみてくると相手方の第二次仮処分命令はその執行によつて抗告人も本件土地に立ち入れなくなる(したがつてそれまで事実上行つていたであろう埋立等の工事も続行できなくなるであろう)だけで決して相手方が第一次仮処分によつて禁止された本件土地への立入が許容される結果を招来するものではないから、先行仮処分と牴触するものではなく、両仮処分は相まつて、互に本件土地が自己の所有であることを主張する本件当事者双方を本案判決の確定にいたるまでこれに立ち入らしめず執行吏をしてその保管に任ぜしめようとするものなのである。

されば以上と所見を異にし本件仮処分執行の違法を主張する抗告人の申立は理由がなく、これをしりぞけた原決定は相当であるから、本件即時抗告は理由がないのでこれを棄却すべきである。

よつて民事訴訟法第四一四条、第三八四条、第八九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 松村美佐男 飯沢源助 高井清次)

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